2021.8.11
アルミの表面処理
なぜアルマイト処理の膜厚はバラつくのか?
アルマイト処理では、ラック掛け(ラッキング)したアルミ製品をアルマイト処理槽に投入し、電気を流します。そこで……
一連のアルマイト工程ではまず、アルミ製品を脱脂槽に投入して油分を除去してから、前処理槽 → アルマイト本槽 → 後処理槽などと、いくつもの処理槽に投入させていきます。
加えて、前工程の薬品から次工程の薬品に投入する間には、「熱湯」や「水道水」、「純水」などの「洗浄槽」が並び、それぞれの薬品処理の都度、それら洗浄槽にくぐらせて製品をその都度きれいに洗ってから、次工程に進行させます。
アルマイト処理の生産ラインには、多くの槽が並んでいます。その約半数の槽は、洗うための洗浄槽が並んでいて、ひとつのアルマイト製品が完成するまでには、相応の時間を要します。
したがって、より作業効率を上げるために、一つのラックにアルミ製品を1個でも多くの数量を取り付けて、いっきに各種の処理槽に投入していくやり方が効率的なように考えます。特に量産の場合は、製品1個あたりの処理コストに影響を与えるからです。
一方で、アルマイト処理時の通電作業において、通電に用いる「電極」からの距離によって同一ラック内にも位置による「電圧・電流密度の分布」に差が生じ、「強電位置」や「中電位置」、そして「低電位置」が発生します(通電ムラ)。
具体的には、同一ラック内でも電極に近い中心位置の高電部分とラック周辺位置(外周側)の低電部分では、アルマイト処理の品質が異なってしまう、ということです。
加えて、ラックを二つ同時に通電させる場合、並べ合わせた2ラック全体に対する中心位置が高電部分に、2ラック全体の周辺位置が低電部分となり、電極から遠い位置になるに従って電圧・電流密度が低くなります。同一ラックによる処理の単位を「1バッヂ」といいますが、異なる品質とは、同じ処理時間でも1バッヂにかかる電圧や電流密度の違いにアルマイト層の成長が影響し、できあがる膜厚の厚み(t)にムラが出ることです。
ラックには1個でも多くの数量を取り付けて、いっきに処理する方が、作業効率が上がります……と前述しましたが、実は、製品毎に異なるサイズやラック掛けする位置に配慮されたラッキングの配列には、品質への影響を左右する「テクニック」が存在します。
処理コストのための作業効率にとらわれるあまり、大量の製品を同一ラックに掛けすぎて処理してしまうと、ラッキング位置により膜厚がバラついた処理品が出来上がってしまいます。
お客様が求める品質を守るためには、要求される膜厚の公差レンジを考慮した「ラッキング数量」や「ラッキング配列」、製品やラックの「サイズ」、「通電量」などを見極めるテクニックが必要であり、併せて、「濃度」、「温度」、「時間」という表面処理3大要素の「バランス」が重要なのです。
均一な電圧・電流密度を確保するために、通電バランスが優れたデザイン力のあるラックそのものの設計は、アルマイト処理の品質をも左右するとも言えます。
電解表面処理における「ラック設計とラッキング配列」は、表面処理メーカーに求められる「スキル」そのものであり、「ノウハウ」なのです。